ツイッター投稿者の情報開示仮処分命令

以下の内容は、2014年当時のメディアの報道をまとめたものです。

「ツイッター投稿者の情報開示仮処分命令」とは

2014年1月16日、一般人の男性が、ツイッター(Twitter)投稿者の情報開示を求めた裁判で、東京地方裁判所は男性の仮処分申請を認めました。

これにより、日本で初めて、ツイッター社に対する裁判所からの情報開示命令が下されました。

報道によると、原告代理人を務めた法律事務所アルシエンの清水陽平(しみず・ようへい)弁護士は、「ツイッター投稿者特定に本格的に道が開けた」と言います。

米twitterに情報開示を求める

2011年頃、62才の男性は、世界最大のつぶやきサイト「ツイッター」上で「弁慶東作」を名乗る人物から「詐欺師」「自己中」「ぶさいく」など、繰り返し誹謗中傷されました。

投稿者は、ニックネームを名乗るだけで実名を明らかにしていませんでした。一方、中傷の攻撃を受けた男性は、本人が特定されるような個人情報が記載されていました。

顔もわからない相手からの罵倒発言は、その後も続きました。

東京地裁に仮処分申請

2013年4月、とうとう男性は投稿者を特定するため、東京地裁において、米国Twitter社(本社・カリフォルニア州サンフランシスコ)に投稿者の情報開示を求める仮処分を申請しました。

「命令」を勝ち取る

報道によると、仮処分申請をしてから3か月後の2013年7月。
東京地裁から男性への名誉毀損が認められ、ツイッター社に対して、投稿者の「IPアドレス」を開示するよう、命令が下されました。「IPアドレス」とは、インターネットのプロバイダー(接続業者)からネット利用者に割り当てる番号のことです。

この裁判所の仮処分決定は、Twitterを相手取ったものとしては、日本で初めてとなる画期的な出来事でした。

IPアドレスから「氏名」「住所」を割り出す

プロバイダーの「ソフトバンクBB」を提訴

しかし、IPアドレスだけでは、投稿者が誰なのかは分かりません。

被害者の男性は、ツイッター社から受け取ったIPアドレスを頼りに、今度はプロバイダーであるソフトバンクBB(東京)に裁判を起こし、投稿者の氏名・住所の開示を求めます。

ソフトバンクにも勝訴

2014年1月16日、東京地裁は男性の訴えを認め、ソフトバンクBBに情報開示を命じる判決を下しました。

報道によると、問題の投稿はすでに削除されており、投稿者に直接連絡を取って、今後は中傷をしないように求めると言います。

信頼関係に基づいた友人のおふざけであったのだろうとも言われていますが、発信者は、こんな裁判沙汰に発展するとは、思いもよらなかったのでしょうか。

ツイッター投稿者の特定が難しかったワケ

誹謗中傷や嫌がらせなどに悩む人たちが、投稿者を特定できないのは、情報開示までのハードルが高いからだと、原告代理人・清水陽平弁護士は言います。

日本法人でなく、米国Twitterが相手

そのウィークポイントは、第1にツイッター社の本社の所在地がアメリカであること。ツイッター社は日本法人があり、「Twitter Japan」(東京都港区赤坂 アーク森ビル)という名前で、日本でも営業活動をしています。しかし、この日本法人には、情報開示の権限がありません。

投稿から3か月でIPアドレスが消える

第2にタイムリミットがあること。投稿者のIPアドレスなどの「アクセスログ」は、通常3か月程度で削除されてしまうため、日本から米国に書類を送るなどの事務的なことや裁判に時間がかかりすぎて、投稿者にたどり着けない場合があります。

「IPアドレス開示」が成功した理由

Twitterの情報開示をめぐる課題には、清水陽平弁護士らによる工夫が功を奏しました。

日本の裁判所へ

第1の難点については、日本で事業展開する海外企業に対して、日本で行っている事業に関する訴訟は東京地方裁判所に管轄権があるという、民事訴訟法上のルールを利用し、日本の裁判所へ仮処分申請を行いました。

わざわざ米国で裁判を起こすとなれば大変なことですが、日本国内であれば、訴訟のハードルはぐっと下がります。

問題投稿ではなく最新のログを求める

第2の点については、仮処分申し立ての時点で、すでに1年半以上経過している投稿もあり、当該発言の日時で申請してツイッター社が開示をしたとしても、プロバイダー側の情報が残っていないことが考えられました。これでは、投稿者までたどり着けません。

そこで、投稿者がツイッターアカウントにアクセスした2013年8月時点での「最新のログ」についての開示を求めました。
直近の投稿であれば、プロバイダーにもログが残っている可能性がありました。

この予想は見事にはまり、投稿者特定に結びつきました。

ツイッターの問題が起こりやすい背景とは

実名を名乗らずに利用できる

ツイッターにおいて、他者への誹謗中傷や嫌がらせ、バカッターなどの犯罪自慢が横行するのは何故でしょうか。

ツイッターで発言を投稿するためには、会員登録をしてアカウントを作成しなければなりませんが、これには実名を入れる必要がありません。

つまり、投稿者が誰なのかは、見ている相手にはわかりません。

発信がより簡単に

最近はスマートフォンや携帯電話のアプリが充実し、より簡単に発信することが出来るようになっています。

報道によると、1人で複数のアカウントを取ることも可能なので、いろいろなキャラクターを設定してツイートを楽しむことも出来ます。

「誰でも」「気軽に」つぶやける……でも投稿者が「誰か」はわからない。

そんなツイッターの匿名性を利用して、誹謗中傷や嫌がらせなどの投稿が後を絶たないのです。

匿名性は絶対ではない

しかし、2014年1月の東京地裁の情報開示命令により、ツイッターの匿名性が絶対に守られるという認識は、幻想であることが証明されました。

実際に、投稿されたツイッター社からIPアドレスの開示を受け、これを手がかりに、プロバイダーに契約者の氏名や住所などの情報開示を求めていくという方法で、投稿者特定にいたっています。

twitter投稿の痕跡

個人の特定は可能であるということ

誰もが気軽に発言できるツイッターでは、その匿名性を利用して、他人への誹謗中傷や嫌がらせともとれる投稿が問題となっています。

しかし、情報開示命令が出されたことにより、投稿者の痕跡をたどることは可能であることが明らかになりました。
そうなれば、個人は特定され、匿名性は保持できなくなります。

ツイッターを利用する際は、相手の気持ちを考えない発言や、悪質な誹謗中傷には注意が必要です。

相手のためにも、自分自身のためにも。